石の上にも20年 Vol.5「飛ばない!」

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3人の娘を育て、みんな大人になって巣立っていった。

空っぽの娘たちの部屋を見ていると「片付けなさい!」と怒鳴ったことや「イヤイヤ期」「反抗期」に眉間にシワを寄せていた頃を思い出す。
先輩の失敗談や励ましに、たくさんの元気や勇気をもらって涙を拭いたことを思い出す。

渦中は言えなかったけれど、子どもが大人になった今だから笑って言える石の上のこと。

【飛ばない!】

転勤族で社宅住まいだった我が家。
昔は防音の設備も今ほど整っていなかったし、ましてや古い社宅が多かったから、できるだけ下の階への「音」のことを気にして過ごすようにしていた。

そんな中、3~4歳ころの次女は家の中をとにかく「歩かない」子だった。
部屋の端から端へ移動するのに、歩いているところを見た記憶がない。
いつもピョンピョン跳ねていた。
あるいは、イスからイスへジャンプして移動。
当然、落ちることもある。「ドーン!」
私は怒る。
「下のおうちの人に怒られるよ!飛ばない!!」
その繰り返しの毎日。

「飛ぶ」ことに腹が立っていたんじゃない。
「次女が飛ぶ」ことに腹が立っていた。
三女が同じことをしても、私はたぶんあんなに怒らなかっただろう。
同じわが子でも相性があることを感じ始めたころでもある。
三姉妹が同じことをしても次女だと過剰反応してしまっていた。
そしてその気持ちは、次女が中学生になっても持った。
「いったい娘と何歳離れてるの?」と自分に呆れたりもしていた。
親として反省しかない。

あれだけ落ち着きのなかった次女は、今、地に足を付けて看護師をしている。

イスからイスに飛び移るところは、当分見ていない。
あの頃、次女だけに厳しかったことを、娘が大人になって冷静に注意されている。

今の私が、当時の私に気づいてほしいのは、私が周りから怒られたくなくて娘の「楽しい」をストップしていること。
「下の階には赤ちゃんや具合の悪い人がいて、ゆっくり寝ていたいかもしれないんだよ」そんなことを何度も何度も何度も丁寧に伝えればいいだけだった。
でも私は「飛ばない!いい加減にしなさい!やめなさい!」を連呼していた。

よく、真ん中の子は寂しくて親の注目がほしいからわざと怒られることをする、という声を聞くけれど、それは大人の言い訳。
寂しくさせたのも、わかってあげられなかったのも私だ。
大人として、親として、自分の偏りに気づいていなかった。
もっと違う向き合い方、もっと大切な触れ方があったに違いない。

心配を抱えながら人を育てる。まさに育児は育自なのだ。
20年経って、ようやく石の上から降りてみたら、なんとなくまた上がりたくなったりしている。

 

 

 


執筆者プロフィール

細田恭子
さいたま市在住。帝王切開で三姉妹を出産し、
2000年にWEBサイト「くもといっしょに」を開設。帝王切開カウンセラーとして、各地で講座やお話し会を開催。共著『ママのための帝王切開の本』『帝王切開で出産したママに贈る30のエール』(中央法規出版)趣味はミュージカル観劇

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